DonoCronicle

DIE WAHRHEIT IST IRGENDWO DA DRAUẞEN

アナゴとハモ

まえのエントリから1か月が過ぎた。何かと忙しかったのだろう、と思う。

さて、気を取り直して、無理に取り直す必要もないが、今日も虚空に向かって呟くのみである。

ハモという魚がいる。ウナギ目ハモ科ハモ属の一種。漢字なら「鱧」。京都などのハモ料理が有名らしい。たいていの日本人はどんな魚か想像できると思う。ウナギみたいなやつだ。

東北地方では、ハモはまず捕れない。暖かい海に棲むらしい。どの辺りが北限なのか知らないが、関東でもメジャーではないようだ。しかし、東北に住んでいると、「ハモ」という魚はよく聞くのである。僕の住んでいるあたりでもよく「ハモ」を釣っていたりするし、料理屋さんで「ハモ」が出てきたりもする。

東北地方でいう「ハモ」とは、マアナゴのことを指している。ウナギ目アナゴ科アナゴ属の一種。漢字なら「真穴子」。ハモとは、科レベルで違う。哺乳類にむりやり当て嵌めてみると、イヌとネコくらい違う。キツネとタヌキよりも遠い関係だ。ライオンとトラとヒョウなんて、属レベルまで同じなので、ハモとマアナゴに比べたら兄弟みたいなものだ。

東北地方では、どうしてマアナゴのことを「ハモ」と呼ぶようになったのかは寡聞にして知らないが、このあたりで「ハモ」といったら、まず間違いなく、種としてはマアナゴと分類される魚のことを指している。

これを心得ている少々意地の悪い人が、料理屋で「ハモ」と言って出されたものを、「これはアナゴですよね?」と敢えて何度か聞き返してみても、「いいえ、ハモです」と返されるのであきれた、と語っていたが、それは少々、心得違いだと思う。

小さいときから、周囲の大人はマアナゴのことを「ハモ」と呼び、「ハモ」というのはこの魚だ、そう思って育って生きてきているのだから、このあたりではマアナゴではなく「ハモ」が一般的な呼び名なのだ。学校の理科でも生物でも、ウナギ目の分類の話なんかまず教えてくれない。しかも、料理屋では、学術的な種名の話なんかしていない。このあたりで「ハモ」と呼んでいる魚を、間違いなくそれが「ハモ」と思って料理しているのだから、出された料理も「ハモ」である。そういう歴史・文化なのだからしょうがない。誰が悪いわけでもないし、嘘を吐いているわけでもないし、ましてや騙そうとしているわけでもない。

魚介類の名前は、とくに方言が多様で、ちょっと場所が変わるとすぐ呼び名が変わったりするので、注意が必要だ。同じ日本語だからといって、必ずしも同じものを指しているとは限らないのである。

 

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ちなみにこれは、宮城県の松島のあたりで食べた「穴子天重」。ちゃんと穴子と表記されていた。東北地方だからといって、必ずしもマアナゴのことを「ハモ」と呼ぶとは限らないことも、付け加えておかねばならない。

ちなみに僕はハモを食べたことが(たぶん)ないので、じつはこれがアナゴではなくハモだったとしても、ぜんぜん判らない。